Method
Tensor Train
Tensor Train (TT) は,テンソルネットワークの中でも基本的な 1 次元鎖状の表現です. 高階テンソルを 3 階テンソルの列として表すことで, 低ランク構造を持つ高次元データを少ないパラメータで扱える可能性があります. DMRGの文脈ではMatrix Product State (MPS)と呼ばれ,波動関数を表すことが多いのですが,ここではより一般的なテンソルを対象とするため,Tensor Trainという名称を使います.
TT形式
$R$ 個のインデックス $\boldsymbol{\sigma}=(\sigma_1,\sigma_2,\dots,\sigma_R)$ を持つテンソル $F_{\boldsymbol{\sigma}}$ を考えます. TT形式では,このテンソルを次のように 3 階テンソルの積として表します [1].
各 $F^{(\ell)}$ は TTコアと呼ばれます. 中間のコアは $F^{(\ell)}_{\alpha_{\ell-1}\sigma_\ell\alpha_\ell} \in\mathbb{C}^{\chi_{\ell-1}\times d_\ell\times\chi_\ell}$ という形を持ちます. $\sigma_\ell$ はローカルインデックス,$\alpha_\ell$ は隣のコアをつなぐボンドインデックスです. ボンドインデックスの次元 $\chi_\ell$ をボンド次元と呼び, $\chi=\max_\ell\chi_\ell$ を TT の代表的なボンド次元として扱うことがあります.
波動関数の例
1 次元状にスピン $s_i$ が並ぶ系の状態は,基底 $\mathopen{|}s_1,s_2,\dots,s_R\rangle$ を用いて次のように展開できます.
係数 $\psi_{s_1s_2\cdots s_R}$ はスピンインデックスの関数であり, そのまま保存すると系の長さ $R$ に対して指数関数的に大きなメモリが必要です. この係数テンソルを TT,物理の言葉では MPS,として近似できれば, 自由度を大きく削減できます.
作用素であるハミルトニアンも,1 次元鎖状のテンソルネットワークとして表すことがあります. この表現は Matrix Product Operator (MPO) と呼ばれます. MPS と MPO を用いると,固有値問題 $\mathcal{H}\lvert\Psi\rangle=E\lvert\Psi\rangle$ や エネルギー期待値 $E=\langle\Psi\rvert\mathcal{H}\lvert\Psi\rangle/\langle\Psi|\Psi\rangle$ をテンソルネットワークの縮約として扱えます.
TT分解
高階テンソルから TT を構成するには, テンソル分解 で見た 「インデックスを結合して行列化し,SVDで分解する」操作を端から順に繰り返します. まず左端のインデックスだけを残し,残りをまとめて行列として見ます.
次に,右側に残ったテンソルのインデックスを一度戻し, $(\alpha_1,\sigma_2)$ を左側にまとめて再び行列化します.
この行列に対して再び SVD と低ランク近似を行います. これを右端まで繰り返すことで,TT形式が得られます.
要素数と低ランク構造
分解前のテンソルのローカル次元をすべて $d$ とすると, 元のテンソルの要素数は $d^R$ です. これは $R$ に対して指数関数的に増大します. 一方,TT形式で保存する要素数は各コアの要素数の和です.
もし十分小さいボンド次元 $\chi$ でよい近似が得られるなら, 必要な要素数は $R$ に対してほぼ線形に増えます. これが TT を使う主な利点です. ただし,どんなテンソルでも小さい $\chi$ で表せるわけではありません. 特異値が速く減衰し,小さなボンド次元で情報を保てるとき, そのテンソルは低ランク構造を持つと言えます.
TT形式での演算
TT形式のまま演算できることも重要です. たとえば TT を定数 $\lambda$ 倍するだけなら,どれか 1 つの TTコアを $\lambda$ 倍すればよく, ボンド次元は変わりません.
2つのTT同士の和や要素積も,圧縮されたTT形式のままで実行可能です.しかし,定数倍の時とは異なりボンド次元は一般に増大します.具体的な操作やボンド次元の変化は[4]を参照ください.
参考文献
このページは,修士論文の第3章をWeb向けに整理したものです. 修士論文PDFは こちら から確認できます.
- I. V. Oseledets, “Tensor-Train Decomposition,” SIAM Journal on Scientific Computing 33, 2295 (2011).
- S. R. White, “Density matrix formulation for quantum renormalization groups,” Physical Review Letters 69, 2863 (1992).
- S. Ostlund and S. Rommer, “Thermodynamic limit of density matrix renormalization,” Physical Review Letters 75, 3537 (1995).
- H. Takahashi, R. Sakurai, and H. Shinaoka, SciPost Physics 18, 007 (2025).